第13話

・CHAPTER-13「イザ戦場!事情と私情の板挟み?」

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「・・というワケで、夏休みも終わりいよいよ秋に入りますが・・」


・・ああ、校長先生がなんか話してるねぇ・・

みんな思っている事なんだろうけどさぁ、なんで「というワケで」とか締めの言葉に入ってから話が続くのかなぁ?

・・校長とか来賓とか、決まってそういう回りくどい期待をさせる人たちばかり・・


・・ああ、また一人暑さで倒れたよ・・

秋ったって、まだ夏の暑さが残る9月1日・・今日は始業式だ

・・暑さでフラフラしているだけじゃなく、例の完徹計画を実行したおかげで眠気も厳しい・・

僕は倒れそうになるのをこらえて、何とか教室まで戻る事ができた

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・・後はやることなんて、そんなにない

掃除当番を決めて班編制の再確認をして、そのくらいで休み時間がやってきた

・・僕の机の周囲には景、委員長、明、小麦ちゃんがいた


「あー、死ぬかと思ったぁ・・」

「景、めちゃくちゃフラフラしてたもんね・・」

「裕司くんこそ厳しそうでしたよぉ?・・さては最終日に完徹したんでしょ☆」


・・なんで当たるワケ!?

僕は信じられないような顔で、委員長の言葉に無言で頷いた

委員長はふふん、と得意げに鼻を鳴らす


「・・(メモ:ところで忍くんの姿がないけど、裕司くん知らない?)」

「う~ん・・それが最近おかしいんだよね・・」

「?・・忍くんがおかしいのはいつもの事でしょ?」

「・・そりゃまぁ世間的にはかなりおかしいけどぉ」


景のツッコミに力一杯ため息をはく・・

・・そして話し始めようとした僕の言葉を、委員長の一言が遮った


「実はぁ・・忍くんが女の子と歩いているのを見たんですよ☆」

「マジ!?」


・・おかしいおかしいと思っていたら、そんな事にっ!?


「ぼ、僕も・・・忍がアイドルのDVD持ってる所とか見たけど・・」

「あ、東京タワーの展望台で何とかってアイドルの写真見てたよ?」


次々明るみに出る証言の数々・・


「何とかって・・誰?」

「えっと・・白銀・・なんだっけ?」

「白銀すばる?」

「そうそう、あの歌の上手い子・・・・・」


しばし沈黙・・

後に小麦ちゃんが手をぽん、と打った


「・・(メモ:忍くんはすばるちゃんとよろしくやってるとか?)」

「・・・あのねぇ・・いくらなんでも可能性的にあり得ないよ、忍があーいう世界の人とつきあうなんて・・」

「そうですよぉ、私が見たのもその辺にいそうな小学生でしたし☆」


最後の委員長の一言で、その場の空気が凍り付いた

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「へっくしょい」


小さくくしゃみが出た。

・・ああ、おおかた裕司やら雫やらが俺の噂でもしてるんだろう

やれ「忍者だけにどこかで仕事してるんだ」とか「どうせ家で寝てるんだ」とか

・・ところがどっこい、今俺は修行の真っ最中だ

足下は一つだけの足場を除いて断崖絶壁、落差120メートル

手をつくような場所はなく、その足場・・わずか10センチ四方の木の柱の上に立つという集中の試練だ(どうやってるのかは聞くな)

・・この修練場の現在位置は東京を離れ・・場所は無論言えないが、伊賀の里にある


俺は足場の上で精神を集中し・・雑念を振り払う

・・この修行が終われば、俺はようやく東京へ戻れる

いきなり帰省させられて、こうしてまた退屈な修行を4日も送らされていたわけだが・・

・・ふと、夏休みの事が頭に浮かぶ

・・東京ドームで戦って、自衛隊がロボット作って、景の父さんが一時的に帰宅して・・


そして・・すばるちゃんと会って

・・・すばるちゃんと・・


・・・・気がついたら俺は、120メートル下まで急降下していた(汗)

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9月2日・・午前6:00

天導寺邸では、いつもの朝が始まろうとしていた

・・「舞人がいる状態での、いつもの朝」が・・


・・メイがすやすやと寝息をたてていると、その部屋の壁から赤いランプが現れた

くるくると数回空転して後、赤い輝きを点滅させながらけたたましい警報音を響かせる


「緊急発進、総員配備位置についてください・・緊急発進・・・」

「う~・・・・・・」


コンピューターの音声が聞こえてきて、メイは寝苦しそうな声を上げる

・・その直後に、今度は地下で大きなもの・・エレベーターが動く音が聞こえた


「ゲート開放!」

「了解、ゲート開放します・・発進位置へ」

「とぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


がば・・とメイがベッドから身を起こした

・・舞人の声が家中に聞こえてきたため、寝ている所の騒ぎではない・・・

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居間であたしと母様が席についていると・・天井の一部が開いた

・・父様がすたっ・・と着地して、いつものカウボーイハットをすっ・・と上にあげる


「世の悪を討ち正義を守る!嵐の勇者・天導寺舞人、ただいま到着!!」

「・・おはようございます、舞人さん」

「・・・・」


・・こーんなハイテンションによくやるわぁ・・・父様も・・

家中に張り巡らされた緊急発進用のチューブ、それを使って地下の自室から一気に直行してこれるようになっている

・・おかげで毎朝、あーいう発進プロセスの音声が流れてきて、警報まで流れて・・

あたしはもう慣れてるからちょっと目をこする程度だけど、メイちゃんと咲妃ちゃんが不憫でならないわ・・


「・・サリー、今日も綺麗だよ・・」

「舞人さん・・」


・・ああ、始まった始まった・・・

毎朝コレを見てるおかげであたし、「風と共に去りぬ」とか見ても感動しないのよね・・・


「・・おはひょーごじゃいまふぅ・・・・・・・(眠)」

「おはよう・・咲妃ちゃん」


咲妃ちゃんが寝ぼけ眼で、それでも急いで着替えてきた

・・メイド服の着方を間違えて、あと一歩という所でスカートを踏んづけて転んでしまう(汗)


「・・・・・いたい・・」

「大丈夫・・?」


・・ようやくまともに目が開いた所で、母様と咲妃ちゃんが朝食の支度にとりかかる

父様はメモ帳とにらめっこしながら、時々あたしにこう聞いてくる


「景、今日はどういう台詞が似合うと思う?」

「・・「平和を守る鋼の正義、ダイテンドウ見参!!」・・ってコレなんかいいんじゃないかしら?」

「そうか♪ダイテンドウの出番が来る事を祈っておこう♪」


・・・父様・・ホント楽しそうねぇ・・・・

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それから少しして・・

父様は地下ゲートからエリアルホームに行ってしまった

・・父様が出発するのを見送ってから・・あたしは地下ドックで並んでいる「アリス」と「ダイテンドウ」を眺めていた

・・あたしが基本フレーム「シード」から再設計したロボット「ALICE(アリス)」

・・そして父様が基本フレーム「オリジン」から再設計したロボット「大天導(ダイテンドウ)」


先日の東京ドーム戦以降異形との戦いは起こっていないけれど・・あたしのアリスは全然戦果をあげられていない

いつもユウちゃんとメイちゃんに助けられてばかり、咲妃ちゃんだってまともに戦えたのは東京ドーム戦だけ・・


・・それなのに父様のダイテンドウはあっさりと異形を・・それも新型を倒してしまった

・・悔しいけれど、あたしの腕前じゃ父様にはまだまだ及ばない・・

あたしはアリスとあたしの無力さを大いに感じていた


・・あたしの技術では、オリジンを超えられないの?

あれからずっと、あたしの中にはもやもやした気持ちが渦巻いていた

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そのころの陸上自衛隊・・

平戸研介以下の第一機動小隊・・「AEGS隊」は新宿都庁地下に作られた基地で、細々と朝食をとっていた

・・隊長の平戸研介、そして整備班の松井亮二と東海林澪、パイロットの神楽太一。

テレビをつけてニュースを眺めながら、皆黙々と朝食のシャケ弁を食べている

・・この光景はもはや、自衛隊という組織の様子には見えない


今日の天気は晴れ、所により・・・

天気予報になったとき、澪が自分の鮭を太一の弁当箱にひょいと乗せてよこした


「・・およ?・・何スかしょーじさん?・・また?」

「魚キライでも死にはしません」


そう言ってメインのおかずを失い、面白みのなくなった弁当を頬張る澪


「おめーはそーいう事言ってるから胸がデカくならねぇんだよ」

「・・・松ジイこそ野菜食べないから長生きできませんよ~だ。」


べー、と松井に向かって舌を出す澪

・・確かに松井の弁当箱にはしっかり温野菜サラダだけが残っている


「うるせぇ、俺ぁまだまだこれからなんだよ!なぁ、タイっちゃん?」

「両方ともメシくらい静かに食べてくれないと困るんスけど・・・・」


と言っていると、松井はここぞとばかりに野菜サラダを太一の鮭の上にのっけてよこした


「・・朝っぱらからこんなに食えって言うんスか・・・・」


太一はおかずだけが倍に増えたそれを見て、幾筋かの汗を流した



・・緊張感はないのか、この小隊は・・・

平戸はさっさと食事を済ませ、今度は頭を抱えていた

まったくもって真面目な雰囲気を出そうともしないこの連中に対していい加減呆れの感情も薄れようとしていた

・・同隊のメンバー集合より一年・・平戸は毎日、隠れて胃薬のお世話になっているのだった(汗)

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・・そして、メンバーの内一人だけ・・私、早月野瑞季だけは近くにある自宅のリビングにいた

テーブルの上には私の弟が作った朝食が並べられ、向かい側にはその弟がいる

・・家へ帰ってきた私を、にこにこと柔らかい笑顔で迎えてくれる唯一の家族。


「お姉ちゃん、まだ出番来ないの?」

「うん・・私達のロボットは特殊な任務だからね・・」


弟・・「明」は輪中に通う2年生。

友達と集まって妙なチームを結成するなど、どうやら楽しく日々を過ごしているらしい


「お姉ちゃんは大丈夫よ、あなたはどうなの?明。」

「俺も大丈夫だよ、みんなも元気だし仲良しだし・・」


明はそう言いながら、懐の銃(エアガン)を二丁取り出した


「それに、イザというときはお姉ちゃんの格言通りにね・・」


私も言葉をあわせる


「口より先に弾丸で語れ」

「・・大丈夫ね♪」

「・・大丈夫だよ♪」


↑・・人間的に間違ってますがご了承ください

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・・数時間後・・


けたたましい警報と共に、新宿都庁地下・AEGS隊基地は騒然となった


「敵・・「異形」とおぼしき物体出現、距離半径10キロ圏内です!」

「よし・・・総員出撃!初陣だからと浮かれるな、エイジスをテストの時の性能だと思うな!本気でかかれ!!

「「「了解!!」」」


メンバー一同の声が重なり、エイジス2機を積み込んだトレーラーはハンガーから走り去った
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・・ややの間をおいて、現場到着

すぐさま太一と瑞季が乗ったエイジス2機はトレーラーの荷台から滑り降り、モーターの唸りをあげながら前進する


・・うぃぃぃ・・がしゃん・・・・


まさにロボットが動く・・そんな音をたてる2号機フューネラルのぎこちないモーション


「よし・・早月野!目標へライフルを!」

『了解』


瑞季は後頭部の辺りにあったスナイピングユニットを起こして目の前に持ってくる

・・視界には霧が立ちこめ・・やがて、晴れた

中からは巨大な怪物の・・その顔のような部位が、のぞいている

瑞季は狙いを定め、フューネラルの構えた狙撃ライフルから一撃を放つ・・

・・弾は、霧の遙か向こうへ飛んでいった


「・・早月野がはずした!?」

『バカ!何やってんだ瑞季!!』

『な・・!?・・・私が外すワケが・・・』


瑞季は驚愕した

狙撃ライフル用に装備されたこのスナイピングユニットは、瑞季が歩兵訓練で使っていたものと同じ・・正確無比の一級品

それを使って・・しかも、銃器取り扱いに長けた彼女が、外したのだ


「松ジイ、コレ見て!」

「あちゃ・・・」


松井は頭を抱えた

そうこうしている間に「異形」は霧から出てきていたが、そんな事もおかまいなしにモニターをにらみつけていた

瑞季のフューネラル、その腕パーツがたかがライフルの重さに耐えかねてだんだんと下に下がっている

・・あり得ない、自分たちが整備した機体の腕が煙を上げて故障している・・


『松ジイ!これどういう事ですか!?』

「し・・知らねぇよ!俺と東海林は確かに整備をパーフェクトにしたんだぜ!?」

『それじゃどうして・・』

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異形が自衛隊のトレーラー、および2機のエイジスに迫ろうとしていた時、現場の真横・・その位置にあるビルの屋上から、メイと景が眼下の光景を眺めていた

「・・い、いいの景ぃ?・・ボク達助けに入った方が・・」

「・・・・」


・・何よ、結局「最新鋭技術」を微塵も活かせていないんじゃない・・・

異形に組み付かれた1号機テムジンが腕をもぎとられる・・景はじっとそれを睨みながらつぶやいた

「・・あたしと同じで・・・・」

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・・結局、メイが途中で助けに入る事態となり・・

エイジス隊の初陣は、1号機中破、2号機欠陥&故障箇所発生という有様だった


「・・なんだったんだ、結局?」

駆動系の完全な組み間違えだ・・とんでもねぇ、上層部の奴ら、基本フレームを適当にくっつけてごまかしてあったんだ!!」

「俺・・死ぬかと思った(泣)」


実際、異形の「顔」のような部分が目の前まで来ていた

・・「緑の騎士」が助けに入らなかったらどうなっていたか・・・・


「・・・ちっくしょー・・俺がこっちの整備も任されてりゃタイっちゃん達を大活躍させてやれたのに・・」

「松ジイ、上の決定なんだから松ジイの責任じゃないよ」


東海林は松井の肩を叩いて励ます

・・松井が整備として任されたのは外装および武器系統

基本フレームはいきなりブラックボックス化されており、運用する側である松井達にも一切情報公開されていないのだ

昨日荷物運びをしたのが原因で、フレームの関節は完全にイカれていたのだろう


「・・・お役所仕事はこれだからヤになるぜ・・」


松井はタバコをくわえると、地上へ出るデッキの方へ行ってしまった

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・・AEGS隊が初陣の惨敗を嘆いていた頃、夜のお台場では・・


「・・ふぅ・・・」

「すばるちゃん、お疲れー」

「あ、お疲れ様です。」


白銀すばるが今日の収録を終えて、帰宅しようとしていた


「ふふ・・・今日は久しぶりに早く帰れる♪明日はお休みだし♪」


別にアイドルがイヤなワケではない、歌は大好きだしTVにも慣れたし・・

だけど、ゆっくりする時間がなくなるのは小学生にはキツイものがある

・・すばるはフジテレビの入り口を出て、いつか逃げた時のように変装の眼鏡とベレー帽を装備した

服装も普段のものとは違う、出来るだけ地味なものにしている


(・・よし、大丈夫そうね・・・)


さらに周囲を警戒し、またあの黒服の男達がいない事を確認して・・

ようやく海沿いの道を歩いていく


・・すばる程の有名人がガードやらマネージャーの一人もつけないのは何の理由もない、ただ単に彼女が一人で歩いて帰るのが好きで、親からもしっかり者と認められているからだ

・・そしてすばる自身が、何故か自分が狙われているらしいという事を周囲に話していない事にもある。


・・すばるがそうして、いつものように歩いていた時だった


左の小さな公園の方で、霧がうっすらと立ちこめている


・・アレは・・


「異形・・・」


・・と、それと戦っている5メートル大の青いロボットの姿だった

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「景!どうして・・!?」

『今日ばかりはあたしが倒さなくちゃダメなのよ・・ユウちゃん達の手柄にするワケにはいかないの!!』


ユウちゃんがブルーに変身する事もなく、霧から出てきた巨大な異形との戦闘を離れて見ている

・・メイちゃんも、みんなもいる・・・だけど、戦っているのはあたしだけ

・・そう、今日はあたしがこいつを倒す!・・そしてアリスがダイテンドウに負けない事を証明する・・!!


あたしは不利の状況もわからず、その気持ちだけで動いていた

完全に私的理由で、遊びでこの戦いをしていた。


『バンカァァァ・ナックルッ!!』


爆発のエネルギーを拳に乗せて、異形の頭部にたたき込む

・・身体がのけぞり、両腕がだらん・・・と垂れる


・・・勝った・・・どうよ、あたしだって・・アリスだって一人で新型の異形を倒す事くらい・・


・・そのとき、異形の手が閃いた


・・!!・・・避けきれない!?・・・・・


今まで攻撃を回避してきたけど、イザ当たったらどうなるか・・

・・地上最強の金属すら砕くヤツらの腕に頭を砕かれて・・

アリスは左半身と頭部を完全に粉砕されて宙を舞った


「お姉様!?・・・・・・・なんて・・・事をッ!!!」


怒りにまかせて咲妃ちゃんが異形に突っ込んでいくのが見えた

・・あたしの意識は、そこで完全に途絶える・・

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・・翌日・・


輪中を離れて少し・・通りかかった公園の、滑り台の上であの人は空を眺めていた

・・後ろから来た近所の子供が「どいてよ~」と言っても上の空で(汗)


「切羽詰まる事じゃねえだろうによ・・」


・・意味ありげに言う言葉は、やっぱり昨日の事が関係しているのかな・・?


「忍さん」

「・・・アレ?・・すばるちゃん?」


ああ、やっぱり驚いてる・・

そりゃそうか、私がこんな所にいるのも珍しいし


「ちょっと通りかかっただけですよ」

「へぇ・・っていう事は今日は仕事お休み?」

「そうですね・・それで、ちょっとお散歩でもと」


忍さんは笑ってくれたけど、どこか寂しそうな顔をしていた

・・やっぱり、昨日の事が・・・

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昨夜・・私はあれから、異形とロボットの戦い・・その一部始終を見ていました

・・というより、何か恐ろしくて目が離せなかったのかもしれません


そのうちにロボットが異形の攻撃で、ひしゃげて宙を舞うのが見えました

左半分がプレス機でつぶされたみたいになって、小さな爆発が起きて・・

・・そして、代わりにマシンガンを構えた女の人・・メイドさんみたいな服を着た人が異形に攻撃を仕掛けていました


「・・なんて事を!!」


攻撃は効いているのかいないのか、無表情からは読み取れません・・

でも、異形はあるリアクションでそれに答えました


・・「攻撃」・・


メイドさんが攻撃を始めて十数秒、後ろから戦隊ヒーローみたいな人が2人飛び出しても、すでに間に合わない・・

わずか十数秒で、メイドさんは異形の拳・・巨大な腕に捕まり・・・・「握り潰された」

私は硬直したまま動けませんでした

大量の吐血、かすれたように聞こえた悲鳴・・

・・それを凝視していた時は、あまりにも衝撃が強すぎて通常の感性が飛んでいたのかもしれません


・・異形は後から来た2人の人に倒されました

ロボットに駆け寄ってきた人の中に忍さんをみかけた時はびっくりしたけど、のこのこ出て行くような真似はできませんでした・・

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「忍さん」

「・・ん?」

「・・何か悲しい出来事があったんですね」


忍はリアクションに困ったが、とりあえず頷いた


「・・知り合いが作ってたロボットが壊れてさ、友達が一人重傷で寝てるんだ」

「え!?」


・・あれで「重傷?」・・・・どうして!?・・

ロボットを破壊する威力・・あれだけの力がかかれば全身の骨はおろか、内臓物から何から、人間を構成しているすべての組織がぐちゃぐちゃになる・・

・・それが今、重傷という言葉で済まされたのだ


「・・・あれ?どうかした?」

「い、いえ・・なんでもないですよ♪」


笑ってごまかすすばる

・・確かに彼女の記憶では、あの人は異形に確実に握りつぶされている

彼女の記憶は正確無比、どうしてかはわからないが、昔から記憶力だけはあった

・・幼稚園以前から今までの記憶が、ごく鮮明に思い出せるほどに


「・・・・・」


すばるは忍とその仲間が何をしているのか、何者なのかが知りたくなった

・・しかし、まさか本人に聞くわけにはいかない・・

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・・天導寺重工本社、エリアルホーム・・


工場長の佐渡は、地下工場でハンガーに固定してあるアリスを見上げていた

・・自分の背丈の2倍、しかしその左半分は昨日の戦闘で大破している


「・・お嬢様の気持ちは痛いほどわかるんだが・・・・」

「こういうお仕事してると、競争意識強いですもんね・・」


佐渡とオペレーターの一人がアリスのパーツが外されていく様子を見守る

・・その会話の意味は、景の心を察してやれなかった事への悔やみでもあった


「・・せめて「多重連装マイクロミサイルポッドつける」って言った時に渋るんじゃなかったなぁ・・」


・・それはちょっとどうかと思うが。

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・・そして、当の景はエリアルホーム上層部で、裕司と共に咲妃の様子を見ていた

ダメージどころの騒ぎではない咲妃は、溶液の中で再生作業が行われている

景は左半身にいくらかの火傷と切り傷を負った程度で済んでいた

・・それが逆に、彼女にこうなった事に対する責任を突きつける


「・・・ごめんね・・咲妃ちゃん、ユウちゃん・・・・」

「景・・大丈夫だよ、咲妃ちゃんは生きてるんだし」


裕司は泣きじゃくる彼女に声をかけるくらいしかできない


「・・あたしはユウちゃんやメイちゃんや、みんなの役に立ちたかったの・・」

「十分だったよ、アリスはいつも活躍してたじゃない?」

「・・・ダメ・・あの子はユウちゃん達の代わりになる存在でなくちゃいけないの・・あんなに脆いのでは・・」


景は涙を払うと、声を強くして言った


「封印を解くわ」

「・・え?」

「・・私が・・甘いのが原因だったのよ・・・・咲妃ちゃんもアリスも、最後のリミッターを解除して・・もう一つの切り札も・・」

「リミッター?切り札?」


景は眼鏡を取ると、髪をほどいて着ていた上着を放った


「・・ユウちゃん・・ごめんね!あたし、一週間くらいお休みするわ!!」

「お休み・・って学校を!?

「さぁーなりふり構わず行くわよ!!あたしは日本の平和のために、あえてパンドラの箱を開ける!!」


景は呆然とする裕司をほっぽって、さっさと地下へ降りていってしまった

・・裕司は追って止めようとも考えたが・・元気になったのならいいか、とあきらめて帰ったという。

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・・翌日から景は本当に休み続けた

裕司は景の家を訪ねてみたりしたが、メイとサリーの両方から「まだ帰ってきてない」の言葉を受けるだけだった

・・エリアルホームでは、何か得体の知れない出来事が起きているのだろうか?


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・・あたしがこの・・これらの「素晴らしい技術」を封印していた理由は一つ・・・

これらが、決してこの世界に存在してはならない技術の一部だと知っているから

・・でもあたしは・・・自分勝手かもしれないけど、どんな手を使ってでもアリスを強くしてあげたい

咲妃ちゃんだって、痛い思いをしなくて済むようにしてあげたい


・・あたしはユウちゃんとメイちゃんの代わりになれるくらい強くなくちゃいけないのよ・・


この先いつか、二人が倒れるような事があれば自衛隊とダイテンドウだけでは守りきれない

決意を固めて、あたしは「ブラックボックス」を解放した


街を守るとかユウちゃん達を守るとか、そういう建前を使って、ついにパンドラの箱を開けてしまった・・・・

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お昼時・・やっぱり輪中屋上


「・・・ん~・・・・」


なんだろ、何か引っかかるんだよなぁ・・・ボク、何か引っかかってるんだけどなぁ・・



「ねぇユウジ、何か引っかからない?」

「何、メイちゃん?魚の骨でも引っかかったの?」

「違うよぉ・・」


・・そうじゃない、何か懐かしい空気が漂っているんだ

・・ボクの知っている何か・・・


「・・何だろう、デストロイの感じに似てるような気がするんだけど・・」

「・・は?デストロイ?


ふぇ?・・どうしたのシノブ・・みんなも?

ボクの顔に何かついてるの?


「メイ・・今のデストロイってのは何の事だ?」

「ふぇ?・・そんな事言ってないよ、ボク・・・・?」

「言いましたよ~☆、それこそまるで重要なキーワードのようにぼそっと♪」


・・シズクもユウジもシノブも、何言ってるの~!?!?



・・あ、でも・・その言葉、またさらに何かを引っかけるような気がする・・・



懐かしい音、そういう名前だったような気がする・・あの赤いギア・・


「・・な、なんでもないよ、多分・・」

「あ、テレビで見た何かの話でしょ?・・デストロイって確か破壊するとかそういう意味だし・・」

「なーんだ、面白くもなんともない・・」


・・みんなまた話に戻る・・

そしてボクは少しだけその言葉の意味を思い出した

・・赤いロボット・・それも大きな大きな、とんでもなく大きな恐竜型・・


(アレ?・・でも、誰かが乗っていたような・・・誰かが運転して・・?)


ボクの頭に、それ以上は何も思い浮かばなかった

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・・数日後・・・

景が学校に来なくなってから、幾度目かの朝・・

僕は夢の中にいた

・・夢の中で見ているTV番組はエイジス隊のダメダメな初陣を報道するニュース番組・・

そして、暴れ回る異形とアリスに関する報道・・

あれ・・・・アリス?・・どうしてアリスが暴れてるの?

僕は不思議に思った所で目を覚ました


・・景が封印とかリミッターとか、怪しい単語ばかり使うからそういう想像になる

とりあえず僕には、暴走したら街一つを消してしまいそうな印象があった


・・ふにゅ・・・


「・・・・?」



この感触は何?・・・顔に柔らかいものが覆い被さっている

目を開けた直後、僕は急沸したヤカンのように真っ赤になった


「ひ・・ひか・・・・・・ひかり・・っ・・・・・・・!?」


何故か僕は景に思いっきり抱きしめられていた

・・・・僕が顔を胸に埋めるような形になって、ベッドに横たわっている


「・・あ・・おはよう、ユウちゃん」

「じゃなくて!・・・な、なんでココで寝てるのさ!?」

「あ~・・ようやくやること終わったからユウちゃん起こして学校行こうと思ったんだけど・・イザとなったら眠くなっちゃったのよ」

「・・・・・・・・・・」


それ以上はノーコメントとした

・・景はにこっ・・と笑って、「切り札」「パンドラの箱」とか言っていた怪しい兵器の完成を喜んでいたから


・・頼むから東京を破壊するようなものでないことを祈ります・・(泣)

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・NEXT-14「究極新生!機械の国のアリス(前編)」

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